落語の親子会ってなに?その魅力と「瀧川鯉昇・瀧川鯉八」親子会の感想

親子会ってなに 落語雑学
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落語会には色んなタイプがあります。「独演会」「二人会」「三人会」「一門会」などなど。その中で「親子会」というものもあります。

もちろん親子会というのは本当に親子というわけでなく、師匠と弟子が出演する落語会のことをいい、基本的には師匠と弟子1人の組み合わせによる2人会となります。

ということで親子会の魅力、実際にいった親子会についてご紹介します。

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「親子会」の魅力とは

210916国立演芸場外観

私の思う親子会の魅力についてピックアップ!

❶師弟の芸は似てる?似てない

弟子である落語家はもちろん師匠の指導を受けています。なのでその芸が似てるのは当然。でも全く似てない場合も多いです。

もちろんその師匠に惚れて入門してるので、表面的には似てなくても芸に対する向き合い方などは受け継いでいると思います。

師弟の芸を普段は意識したり、中々比べたりはできないですが、親子会ならそこに注目して考察する楽しみがあります。

❷師弟の関係性が垣間見える

親子会で楽しみなのは師弟のトークです。そこで師弟の関係性を見ることができます。

優しく放任主義で従属関係が薄い師弟関係では、意外とフランクに会話しているパターン。

師匠の家に住み込み、落語のみならず人としての修行もしていたパターンであれば、師匠に対しての言葉使いや立ち振舞からそこはかとない緊張感を感じる事ができたり。

その関係性を読み解くのもまた面白い。

❸年代・経験の違う二人会が見れる

親子会の場合、師弟とも人気の落語家という場合が多いです。

さらに、通常の二人会は同年代の仲のいい落語家同士で開催する場合も多いのですが、親子会は年代も経験も違う二人の落語家の共演が見れるという点でもお得な落語会といえます。

行ってみたかった親子会
  • 柳家小三治・柳家三三の親子会
    人気・実力は言うまでもない名人「柳家小三治」と「柳家三三」の落語会。粋な江戸落語が思う存分に堪能できる落語会は残念ながらもう実現することはない。。
  • 立川談志・立川談春の親子会
    いわずとしれたカリスマ落語家「立川談志」と、多方面で活躍する弟子「立川談春」の親子会。緊張感がほとばしる落語会の様子はDVDにもなっています。
  • 柳家さん喬・柳家喬太郎の親子会
    似てない師弟の親子会。本流の芸を叩き込まれた正統派の落語家「柳家さん喬」と落語に新しい時代の風を吹き込む「柳家喬太郎」の共演が楽しめる。
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実際に行ってみた「瀧川鯉昇・瀧川鯉八」親子会の感想

211026鯉昇・鯉八親子会

2021年10月26日(火)に実際に行ってみた「瀧川鯉昇・鯉八 不思議な親子会」の感想です。場所は国立演芸場。

これまで文京シビックセンターホールで開催されていた会が、国立演芸場に会場を移して開催。

前回『にきび』を演ったら、文京シビックセンターを出禁になった、という鯉八さんのギャグから、まず対談コーナーがスタート。

鯉昇師匠がよくお金を拾う、ものを貰う、という話で会場を沸かせて、前座、古今亭菊一『饅頭こわい』へ。鯉昇師匠と鯉八さんは二席ずつ。ともに二人にしかできない落語を披露。

鯉昇師匠はマクラなどでときどきゾクッとするようなシュールな笑い話をするときがあり、ほかの落語家とは違う不思議な存在感を感じさせる噺家です。

その弟子、鯉八さんの自作自演で演る落語が、いま落語界でイチバン不思議な落語であることは、間違いないですよね。

というわけで「不思議な持ち味の親子」の会。

瀧川鯉昇・鯉八 不思議な親子会の内容

公演情報
◯出演者:古今亭菊一瀧川鯉八、瀧川鯉昇
開催日:10月26日(火)
開演:18:30〜
料金:全席指定4,500円
会場:国立演芸場

プログラム内容
〈1〉古今亭菊一『饅頭こわい』

〈2〉瀧川鯉八『ぷかぷか』
〈3〉瀧川鯉昇『そば処ベートーベン』
〈4〉瀧川鯉昇『二番煎じ』
〈5〉瀧川鯉八『新日本風土記』

瀧川鯉八の落語2席

弟子の「瀧川鯉八」の落語2席のあらすじ&感想です。

新作落語『ぷかぷか』

ポップスターの誕生、そして栄光と悲劇、はなぜ?

〈あらすじ〉
「なんかいいことないかなあ〜」とおかしな節で歌いながら町を歩く万太郎。

「レコード出しましょ」と誘われ、またたく間に7週連続第1位。改名したナイフ万太郎はスターとなった。湯沢のびーちゃんと対談。美人田れいとの熱愛発覚。万太郎はもはや大スター。

ヨーコ〉お帰り、万太郎
万太郎〉ヨーコ、まだ起きてたのか
ヨーコ〉万太郎、変わったね。
万太郎〉日本中、このナイフに夢中なんだぜ

ナイフ万太郎に影響されフォロワーが現る。その名も「はさみ千太郎」。楽曲「なんかいいことなくてもいいよね」リリース、そっちも第1位獲得。

万太郎と千太郎との対談が行われたが。。
「ナイフってなまいき」
「千太郎は謙虚」と世間。
週刊誌の見出しは「天狗になったナイフ万太郎の凋落」

人気の落ちた万太郎はヨーコにいう。
「ヨーコ。いっしょに帰ろう。いっしょに路上から始めよう。自分と向き合ってみるよ。──これからは人と人をつなげたい。だから、ホッチキス太郎と改名したんだ」

どこからともなく銃弾が「バキューン」

倒れ込む万太郎。
万太郎〉ヨーコ、もうダメだ。
ヨーコ〉(ホッチ)キス太郎、ありがとう。なんかいいことあった?
万太郎〉れいちゃんとキスできた。

「みたいないいことないかなあ」

「やっと親子会できました」

男が撃たれ、そのパートナーはヨーコとくれば、ジョン・レノン&オノ・ヨーコ。男と女の話でもあり、西岡恭蔵の曲『プカプカ』の世界も下敷きになっているのだろう、とは思います。

そこで起こったことを振り返れば、ポップスターの誕生、そして栄光と悲劇。でも、それがなぜ「なんかいいことないかなあ〜」なのかは、まったくナゾ??? そんな不思議な鯉八劇場。

全編ほぼセリフのみ。場面は急転換を繰り返すけど、それでも強引に鯉八落語の世界に引っ張り込まれてしまう。

鯉八さんのたっぷりとした間をとった喋りには観客を惹き付ける強力な磁石が仕込まれているような。。なんだかアタマから高座に持っていかれるような、そんな感覚があるんですよねえ。

ラストの一言はもちろん今回のアドリブ。

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※視聴方法&内容の詳しい解説はこちら

新作落語『新日本風土記』

ばっさまの切々たる心情が爆発

〈あらすじ〉
秋、じっさまがつくった新米ができた。今年も上等にできた。でも、短い別れが近づく。じっさまは今年は愛知県に行く。現金を稼ぐため。ばっさまは一人ぼっちの冬が寂しい。

春、じっさまが帰ってくる。苗作り、田起こし。夏、米づくりに忙しい季節、苗を植える。田んぼの世話をする。じっさまは米づくりを始めて五十年。まだ五十回しかつくってない、まだまだひよっこ。じっさまはそう言う。

じっさま、米づくりに夢中。ばっさま、いつも寂しい。ばっさまが手伝いしようとすると、いつも指にトゲが刺さるのでじっさまは指を取って、口でトゲを吸い、ペッと吐いてくれる。よかよか。じっさまはいつもそういって慰めてくれる。

秋、今年も豊作。よかよか。ちっともよくねえ。ばっさまはいつも寂しくてどうにかなりそう。でもじっさまの米づくりの情熱知ってるからなにもできない。ばっさま、すまねえ。でも米、ばっさまに食べてもらいてえ。

ばっさま「じっさま、今年の新米、、、チャーハンにしてみた

じっさま「バッキャロー!」

米づくりが生きがいのじっさまと、いつも放っておかれて寂しいばっさま。笑いのなかに、ばっさまの切々たる心情が垣間見え、ラストの前にはそれが爆発。

じっさまの出稼ぎというリアルな事情も含めた、日本の農家の老夫婦の日々。

アイロニーも含めた『新日本風土記』というタイトルが、実に言い得て妙。

ラスト「チャーハンにしてみた」で、張り詰めた思いが一気に笑いに転化して終わる、その見事さにまたしても舌をまいてしまった。

チャーハンというのは、ばっさまの精一杯の抵抗でもあったのでしょう。そう考えるとジワッと胸に染みるエンディングでもあります。

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瀧川鯉八のProfile

●Profile
芸名:瀧川鯉八(たきがわ こいはち)
生年月日:1981年3月27日
出身地:鹿児島県鹿屋市
HPTwitter

●芸歴受賞歴
2006年08月/瀧川鯉昇に入門。前座名「鯉八」
2010年08月/二ツ目昇進
2015年12月/第一回渋谷らくご大賞受賞
2017年12月/第三回渋谷らくご大賞受賞
2018年12月/第四回渋谷らくご大賞受賞
2020年03月/花形演芸大賞銀賞受賞
2020年05月/真打昇進
2021年03月/花形演芸大賞金賞受賞

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瀧川鯉昇の落語2席

師匠の「瀧川鯉昇」のあらすじ&感想です。

『時そば』改作落語『そば処ベートーベン』

「江戸っ子?」「ハーフです」

〈あらすじ〉
男が屋台のそばやを呼び止める。看板を見ると、寿屋。

「江戸っ子?」
「いえ、ハーフです。おっかさんはこっちで、おとっつぁんがあっちなんです」

と、ハーフのそばや。聞くと、親戚から頼まれて屋台を出しているが、ここら辺は酔っぱらいが多くて困ると言う。おとっつぁんの宗教の関係で、酒がダメで甘い物好きで、ココナッツが好きなのだと。

男がいう「丼が珍しい柄だ」。そばやは「ペルシャの焼き物です」と答えた。男は「いいねえ。箸が割り箸で細打ちのそば。ちくわも厚手だ」そう褒めた。

いくらだ。
そばや十六文です。
銭が細けえから手出してくれ。一つ、二つ、三つ、〜八つ、そばや、好きな甘味は?
そばやココナッツ
十、十一〜十六

この様子を一人の男が見ていた。

「江戸っ子なら威勢よく、ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、だろう。なんだって一つ、二つ、三つなんだ?」と独り言。やがて気がついた「あの野郎、ごまかしやがった」

翌日、その男が早速自分でも一文ごまかそうと、屋台を呼び止める。“そば処ベートーベン”という看板のそばやだった。

「変わってるなあ」。箸はもう割ってある。使い込んで、反って釘抜きみたいになっている。その箸をみて男が言う「おい、なんだい箸にネギがぶら下がってるよ」。そばや「あ、ネギですか、深谷です」。男「そうじゃなくて。。」

さらに丼は欠けている。
かけてんじゃねえか。
そばやはい、かけそばです。
なんだかこの丼、のこぎりみたいだな。

丼のなかに大きなそばの塊が浮かんでいる。
そばやすいません。先月、包丁なくしまして。

ちくわを食べようとしたがちくわが見つからなかった。よくみると薄いちくわが丼に貼り付いていた。
そばや〉ちくわはかんなで削りました。

釘抜き、のこぎり、かんな、まるで大工仕事だな、ん、大工? 第九?それでベートーベン?
そばやこれが運命です。
銭が細けえから手出してくれ。一つ、二つ、三つ、〜八つ、そばや、好きな甘味は?
そばや
四つ、五つ、六つ〜

銭の数え方を「ひぃ、ふぅ、みぃ」から「一つ、二つ、三つ」に変えるという目から鱗の発想転換ww

その騙され役としてハーフのそばやを用意したところも、実にチャーミング!

2番目のそばやで、ちくわがかんなで削ったように薄いというのは『時そば』の常套演出。それが「かんな → 大工 → 第九 → ベートーベン」とまで発展してしまう、その柔軟性もすごい。

『時そば』を知らない落語ファンではいない。この「鯉昇・鯉八親子会」にやってくるのは、まさにその落語ファン。

最高に楽しい一席!

▶普通の『時そば』のあらすじ、詳しくはこちらをご覧ください。

▶瀧川鯉昇の動画を無料視聴OK
※視聴方法&内容の詳しい解説はこちら

古典落語『二番煎じ』

鯉昇師匠、町内の旦那そのまんまです

〈あらすじ〉
冬の寒い夜、火の用心を呼びかけるために、町内の旦那衆が番屋に集まった。

人手を半分に分けて、交互に夜回り番と留守番を務めようということにした。そうすれば半分は番屋のなかで暖かい火にあたることができる。

第一陣の夜回りが出発。あまりに寒いので、両手を出して拍子木を叩くこともできない。提灯を股の間に入れて暖をとる者もいて、まともな火の用心ができないまま町内を回り、番屋に戻る。

今度は番屋で火鉢を囲んで暖をとる。一人が、この寒い夜に出かける親を気遣って、娘がふくべ(ひょうたん)に酒を入れて持たせてくれた、と酒を出す。

番屋には役人もやってくるので、本来はここで酒を飲むのは許されない。月番は困った様子を見せながら、土瓶のなかをあけてきれいにして持ってこさせる。

ここに酒を移して、風邪の煎じ薬ということにした。火鉢に乗せればかんになるので、ちょうどいい。すると、うちの娘も気遣って、とほかの旦那衆からも酒がでてきた。

次いで酒の肴に、イノシシの肉、ねぎ、味噌も出てきた。さらにシシ鍋用の鉄鍋も。一同で酒を飲み、シシ鍋を食べ始めたところ、「ばん、ばん」と言う声が外から聞こえた。

見回りの役人がやってきたのだ。あわててシシ鍋を股の下に隠す。役人が土瓶の中身をたずねるので、風邪の煎じ薬ですと答える。

役人は自分も風邪気味なので、と茶碗に煎じ薬を入れさせて飲む。「まさしく煎じ薬じゃ」と役人。「うむ、もう一杯」と、どんどんお代わり。シシ鍋も見つけて食べてしまう。

土瓶の煎じ薬は、もうなくなった。役人はもっとないかと言うが「もう一滴もございません」と断った。

役人「拙者、もう一回りしてくる。その間に二番を煎じておけ」

鯉昇師匠のいかにも町内の旦那衆然とした、気の利いた会話やしぐさで会場が湧いた。そもそもそういう役どころがまた、鯉昇師匠の見た目にもピッタリなのは、落語ファンならばご存じのとおり。

夜回り中のやりとり
「隣町の小唄の若い師匠にご執心だそうじゃありませんんか」。そう言われた旦那が咳払いをして勿体ぶって、一節。「火の用心♪ 夜回り済んだら早く戻ってあたしに火をつけて♪」

番屋でのやりとり
「おとっつぁん、体のなかから暖まるようにって、娘が(酒を)持たせてくれて」
「娘って先月生まれたお嬢ちゃん?」
「そう。口には出さないんだけど目でそういうんだよ」
「そりゃあ、いいお嬢ちゃんができましたねえ」
「こうして、みなさんと飲むと酒の味が違います。うちで飲むと家内の監視のもとで飲んでるようなもので。もう一本つけて、などと言おうものなら『あなたまた飲むんですか』って。『股では飲まない』」

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瀧川鯉昇のProfile

●Profile
芸名:瀧川鯉昇(たきがわ りしょう)
本名:山下秀雄
生年月日:昭和28年2月11日
出身地:静岡県浜松市
HPTwitter

●芸歴受賞歴
1975年4月/8代目小柳枝入門。前座名「春風亭柳若」
1977年1月/春風亭柳昇門下へ
1980年2月/二ツ目。春風亭愛橋と改名
1983年/NHK新人落語コンクール最優秀賞
1985年/国立演芸場金賞銀賞のつどい大賞
1986年/にっかん飛切落語会 奨励賞
1990年5月/真打昇進。春風亭鯉昇と改名
1996年/文化庁芸術祭 優秀賞
2005年1月/瀧川鯉昇と改名

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まとめ

やっぱり親子会は楽しい。

今回の親子会、前座さんの後「鯉八さん → 鯉昇師匠 → 仲入り → 鯉八さん → 鯉昇師匠」という順番で進行すると張り紙にありました。なので、鯉昇師匠『そば処ベートーベン』の後、一旦はお囃子が鳴って、仲入りに入りかけたのですが、師匠がそれを止め、こう語ります。

「わたしがこのままもう一席演ります。それで仲入り。その後、真打昇進の鯉八がたっぷりトリをとる。いま決まりました」

もちろん会場は拍手喝采。

こうして間を置かずに師匠の二席目、『二番煎じ』が始まったのです。いい師匠だなあ。

鯉昇師匠と鯉八さん、落語界きっての名人と異才が、二人とも唯一無二の個性であるということと、自分だけの説得力のある喋りの間を持っているというところに師弟関係を感じてしまいます。

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