ツアーファイナルは大爆笑『粗忽の釘』&やさしい人間たちの『文七元結』
2021年11月20日(土)、よみうりホールで開かれた「春風亭一之輔 ドッサリまわるぜ ツアーファイナル」へ。
一之輔師匠の全国ツアー「ドッサリまわるぜ」の2021年計30回目のファイナル公演。オープニングトークの後は、まず一之輔師匠の弟弟子・一蔵さん、珍しい『笑い茸』。
次いで一之輔師匠。マクラに勢いがついて、もう止まらない。京都での落語会に当たって、帯を忘れてしまったので差し入れして、とツイッターに投稿したところどうなったのかを克明に語って会場を沸かせました。
どんな結末になったかというと、ツイートがあっという間に広がり逆に帯が殺到したらどうしようとむしろ心配に。なんせその落語会は京都。
しかし。。。帯は待てど暮らせど来ず、結局風呂敷を代用したとのこと(笑)
その長いマクラで一席代わり。二席目は意外にもよみうりホールでは演っていなかったと、爆笑連発の十八番ネタ『粗忽の釘』。仲入り後は会場の照明を落として『文七元結』で、ツアー大団円。
▼公演情報
◯出演者:春風亭一之輔、春風亭一蔵
◯開催日:11月20日(土)
◯開演:18:00〜
◯料金:全席指定3,700円
◯会場:よみうりホール
▼プログラム内容
〈1〉春風亭一之輔 オープニングトーク
〈2〉春風亭一蔵『笑い茸』
〈3〉春風亭一之輔 マクラ
〈4〉春風亭一之輔『粗忽の釘』
〈5〉春風亭一之輔『文七元結』
春風亭一蔵 『笑い茸』のあらすじと感想
いつも仏頂面でニコリともしないので、近所の人たちから“仏頂さん”というあだ名で呼ばれている男の奥さんが、どうしたものかと医者に相談した。
「寄席に行けば笑えるでしょう」とアドバイスされ、いっしょに寄席に行くが、亭主はまったく笑わない。
奥さん、再度、医者へ。今度は“笑い茸”を勧められた。それを粉にして亭主に飲ませたところ、ついに亭主の顔がほころんだ。
「あなた、ほころんでますよ。縫って差し上げましょうか」と奥さんもご機嫌。評判を聞いた町内の人たちも“笑い茸”の粉を飲むようになる。町内ではいまや笑い声が絶えない。
やがて“笑う門には福来たる”で、町内に金がどんどん集まってきた。天国の神様が、これでは不平等だと、天国で笑って町内の金を吸い上げる。「上から笑い声が聞こえるので、あちらに参ります」という金たち。
仏頂さん「行くことないよ。あれが本当の空笑いだ」
来年の真打昇進が決まっている一之輔さんの弟弟子、“趣味ダイエット、特技リバウンド”の一蔵さん。
茸業界の集まりでリクエストされた噺とのことでしたが、珍しい噺を聴きました。談志師匠以外で初かも。
笑う門には福来たる!
春風亭一之輔 『粗忽の釘』のあらすじと感想
今日は夫婦の引っ越しの日。あわて者の大工の亭主はタンスを背負って出て行って道に迷い、引越し先で女房が掃除まで済ませたところへ、やっと現れた。
女房は「ほうきをかける釘をうってくれ」と亭主に頼む。亭主はあわてて長い瓦釘を壁に打ち込んでしまった。長屋の壁は薄いので、隣へ突き抜けているに違いない。
謝りに行かなくてはならないが、亭主はここでもあわてて向いの長屋へ行ってしまう。家にいったん戻って、やっと隣の長屋へ。
まずは「落ち着かせていただきたい」と煙草を吸う大工。その隣も夫婦で住んでいるところから、壁の釘のことは忘れて大工は自分がどのようにいまの女房に出会ったか、そのノロケ話を始めてしまう。。
▶『粗忽の釘』のあらすじ、詳しくはこちらをご覧ください。
『粗忽の釘』は一之輔さんの十八番。この噺を演る落語家は多いけど、一之輔さんの『粗忽の釘』が圧倒的に面白い。これでもかの爆笑の連続。
タンスを背負って出た亭主が引っ越し先にやってこない。女房は、片付けも終わって、洗濯して干して乾いて畳んで、タンスがないものだから、畳んだのを上に積んで遊んで、庭に出て縄跳びして、つくりかけのボトルシップをつくって。。やっと、亭主が現れた。
「どこ行ってたの? うっすらヒゲが濃くなっているわよ」
亭主は釘を打ち込んだのを謝りに隣ではなく向いの長屋へ行ってしまう。
向いの男〉ん?おたくはお向かいに越してこられたのですよね。
亭主〉そうです。
向いの男〉隣じゃなくて向かいですよね?
亭主〉(満面の笑みで)はい、そうです(^o^)
向いの男〉ああ…。あなたすごいきれいな目(疑ってない目)されてますね。わかりました見てみます。。ひょっとしたら釘が出てるかもしれない。──やっぱりおかしいですよね。あなたと私の家の真ん中に道が通ってますよね。そこを貫く長い釘なんてないでしょ。
亭主〉あ、ホントだ!!道がある!!ところであの道はローマへ?
向いの男〉知らないよそんなの。早く行きなさいよ。
亭主〉え、ローマへですか?
ようやく隣の長屋へ行って、まずは「落ち着きにきたんです」と煙草を一服。
「いいお住いですね」と褒めて「違う、渡辺篤史じゃない」と自分ツッコミして、番組の歌を口笛でヒューヒューワンコーラス。
さらに自分たち夫婦のなれそめの話を始め、次第にエスカレートし、夏、二人で裸で行水して、思わず「フェーフェー」「フェーフェー」興奮しまくったとの話になぜか及んでしまう。ここで爆笑がピークに!
この大工の亭主の暴走ぶりこそは、一之輔師匠ならではのパワフルにドライブする現代の古典落語の典型!
しかも聴くたびにブラッシュアップされ、さらに面白くなっている!
後ろの席の観客が、笑いすぎてノドがカラカラになっちゃった、と言ってました。ですよね〜
春風亭一之輔 『文七元結』のあらすじと感想
賭博にハマって借金を抱える左官の長兵衛。その娘、お久は自分の体を売って金をつくるために、吉原の大店、佐野槌に行く。
佐野槌は以前長兵衛が左官の仕事をした相手先であり、お久もそこを知っていたのだ。お久の話の心を動かされた佐野槌の女将は、長兵衛に五十両を貸す。
ただし来年の大晦日までに返さないと、お久は店に出されて、客をとる。
五十両を懐に抱えたその帰り道、長兵衛は吾妻橋で身投げしようとする若者、お店の奉公人、文七に出会う。文七は売掛を回収した五十両をすられてしまい、絶望のあまり大川へ身を投げようとしていた。
長兵衛は文七を説得するが、ここで死のうと決めた文七の決意は固い。長兵衛は悩んだ挙げ句、五十両を文七に与え、その場を去る。
▶『文七元結』の詳しいあらすじは、こちらをご覧ください。
11月8日、国立演芸場で開かれた「真一文字の会 春風亭一之輔勉強会」でもこの噺を聴きました。
「自分のことではなく、人のことを第一番に考えるんだ。これが一番大切なんだ」というテーマにやさしく貫かれた一之輔師匠の『文七元結』です。
『文七元結』は長兵衛が見ず知らずの男に五十両(五百万)をあげてしまうという、現代のわたしたちからすれば、それはあまりに出来過ぎじゃないかと捉えられて当たり前の噺。
しかもその金は長兵衛の娘が自ら吉原に身を売ってつくった金。なので、噺への共感や納得が聴き手のなかに生まれないと、たんなる“良い噺”に終わってしまう。
一之輔師匠はそこを上記のテーマ“徹底した利他主義”で聴き手に共感を呼び起こします。それが、とても自然なので、説得力がある。
●「(約束を破るようなことをして、死んだ)うちの人を悲しませないで」と激することなく淡々と語る佐野槌の女将。自分自身ではなく、長兵衛そして亡くなった主人を思っての言葉です。
●近江屋卯兵衛が文七に言うセリフ。「お前が死んでも、誰も喜ばないよ」とこれも淡々とした物言い。まず、人のことを考えるんだよ、とやさしく諭してくれているかのよう。
●極めつけが長屋に姿を現した文七に長兵衛が言うセリフ。「生きてた! ばか野郎、よかったよお」。このとき、五十両のことは長兵衛のアタマになく、文七が生きていたことがただただうれしい。
前回「真一文字の会」の『文七元結』で近江屋卯兵衛に呼ばれて出てきた吉原通の洒落者「えいじろう」ですが、今回えいじろうは「だんな様、番頭さん」と口にしたので、卯兵衛の息子ではなく店の奉公人であることが判明しましたww
この部分以外にも少し変わっていたところがありました。一之輔さんの落語はナマモノ、生きています。
▶「2021年11月8日 真一文字の会 春風亭一之輔勉強会」については、こちらをご覧ください。
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春風亭一之輔、柳家喬太郎、桃月庵白酒、
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