初心者のために古典落語のあらすじをご紹介!
今回ご紹介する演目は『江戸の夢』。素性のわからない男が庄屋の娘と結婚する。その男の正体とは⁉
『江戸の夢』のあらすじと感想
.人情噺.
簡単なあらすじ
村の庄屋の武兵衛、その娘お照のたっての願いで、お照は藤七を婿に迎えた。藤七は金毘羅参りの格好で偶然この家にやってきて、そのままここで奉公することになった男。自らの素性を決して明かそうとしない。
武兵衛の女房、おらくはこの結婚に反対していたものの、藤七は酒も飲まない働き者で礼儀もわきまえ、義理の両親にも尽くしてくれるので、いまはとても満足している。
秋のある日、義理の両親が青葉の頃になったら江戸見物に行こうと考えていることを藤七に話す。藤七もぜひにと喜ぶ。
その夜、藤七は茶の木を仕入れて帰ってきた。藤七は茶の木を庭に植え、それ以来、熱心に手入れをした。
春になり、いよいよ明日、江戸へ向かおうとするその夜、藤七は自分のつくった茶葉を武兵衛に渡し、これを浅草の並木にある奈良屋という茶屋で鑑定してもらってほしいと頼む。
武兵衛にもちろん否はない。その夜はうれしいこともあった。お照が身ごもったのだ。
江戸で馬喰町の宿に泊まり、毎日江戸見物に出かけていた夫婦だが、五日ほどでそろそろ見物にも飽きてきた。
江戸を発つ前、浅草寺にお参りをしてから藤七に頼まれていた奈良屋に寄った。そこは二人とも想像だにしなかった見るからに格式の高い店だった。
主人の奈良屋宗味と面会し、持ってきた茶の鑑定を依頼する。その茶をしげしげと見つめた宗味は二人を奥へ招き入れた。そこで宗味は、武兵衛が持参した茶を丁寧に淹れて、二人に差し出した。
これまで味わってきた茶とはまるで違う甘さに夫婦は驚く。「これは、玉の露という秘法による茶で、自分と倅(息子)しか知らないものです」と宗味は話し始めた。
そのせがれは六年前に死んだと宗味は言う。酒が元で人を殺め、家を飛び出してしまったのだが、死んだのだろう、と。
「よくぞこれほどの茶をつくられたと、婿殿にお伝えください」と宗味は頭を下げる。
店先で宗味に見送られ、歩みを進める夫婦。「あの人が藤七の親御さんだったんですね」というおらくに、武兵衛は「黙って歩け、何にも言うな」せきたてる。振り返ると、宗味はまだ頭を下げて見送っていた。
おらく「藤七の行儀良さ、言葉使い…」
武兵衛「氏(宇治)は争えないものだ」
落語好きの視点
『江戸の夢』は作家・宇野信夫作の新作落語
昭和十五年に六代目菊五郎と初代吉右衛門のための歌舞伎として書かれたものを、宇野自身が昭和四十二年に六代目三遊亭圓生のために落語化した作品。
であるというのはあとで知ったことで、この噺を聴くのは初。聴いていて新作だろうなとは想像がついたが、古典の趣も備えているという印象を受けた。
藤七の素性が知れないということが最初から大きな謎として提示されているので、もしかしてミステリー的な展開もあるのかも、と息を詰めて聴いた。会場もシーン。。
武兵衛とおらく、そして藤七の、お互いへの感謝と深い愛情。藤七と宗味との会えないことの辛さ。それでも藤七がしっかりと自分の人生を歩んでいることがわかり、宗味の心のなかは安堵と感謝の気持ちで満たされた。
扇辰さんの高座では、登場人物たちのそんな心の動きが見事なまでにくっきりと浮き彫りになっていました。
宗味が武兵衛とおらくに茶をいれて差し出すシーン。驚くほど、宗味はゆっくりと丁寧に茶を淹れます。
その時間は宗味の、藤七とその茶への思いの深さゆえの時間であったのではないかと思います。サゲの一言も、たっぷりと間を入れた演出。そこに噺の豊かで深い味わいが込められていました。
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